罪のない夜

運命とは、これを言うのだろうか。
「ねぇ」とカウンター隣で呼び止めた男の顔を、声を、仕草を俺は数百年も先から知っている。
「なんだ?」
「君は、綺麗な子だね……」

そういって伸ばされた手を拒む術など俺は知らない。頬に触れた手のひらは少し暖かくて心地よく、酒に溺れている今を如実に証明していた。
「温かい手だな……何杯飲んだんだ?」
「ハイボール、三杯……」

暗い照明でもわかるほどに紅潮した顔。どうやら今世のこいつは余程酒に弱いと見た。


「綺麗な目だね。それも、僕に頂戴。ね、いいだろう? いいよね」
最期に聞いた言葉は、本当に、哀れで、可愛そうで。


なんて、可哀想な男。
「僕のモノになってよ」と、その一言さえあれば俺は。
――俺はお前に罪など負わせず、お前だけのモノになったのに。
土の下は、酷く暗くて寂しいんだ。


寂しい夜』のアンサーです。
長谷部くんは前世の記憶があった上で、現実での殺傷が罪になる事を知りながら受け入れました。
死姦癖の片鱗があった光忠はタガが外れて手にかけてしまい、自分の物にするためにあの公園の土の下に埋めてしまいました。

長谷部くんは冷たい土の下から救われるのを待っています。